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日記、ところにより妄想。
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お待たせしました。

駆け足です。文体がなんだかおかしいです。これで1/4なんか読み返した日には、あちゃーって感じです。

まあ、加筆修正が前提の公開ですので、あとでバランスを整えればいいわけですが。

しかしまあ、亀のような歩みでも書き続けるものですね。
気がつけば山場は終わり、あとは結ぶのみと。ページ数もなんだかんだで15P相当。短編としては十分なサイズではないでしょうか。

短編とはいえ、何かを書き上げるのも数年ぶりか。感慨深いな。

もっとも、まだ最後の締めが残ってますが。




 
 客間に通されたミリアルデとイルザを、バーウェル伯爵は喜色満面の面持ちで迎えた。

「あの大悪党を討ち取った武人であるからには、さぞや名のある剛の者とは思ってはいたが、まさかベルイマン卿のご息女とは。早く申し出てくれれば、もてなしたものを」

 ミリアルデは恭しく頭を垂れた。

「有り難きお言葉。されど、そのようなもてなしは武者修行の身には過ぎるというもの。無礼を承知で、ご挨拶のほうは遠慮させていただきました。それに、悪を討つは騎士の務めにございます。礼には及びません」

 もっとも、まだ騎士の身分ではありませんが、と語尾に付け加える。

「さすがは、神代よりレスニアに仕えた一族。古の武人、エリムの末裔よ。その心意気、まことにあっぱれじゃ」

 バーウェル卿は膝を叩いてミリアルデの器量を喜んだ。

 ベルイマンは家格こそ男爵位と低いが、その血脈は数ある王国貴族の中でも最古のものである。

 レスニア王国が誕生する以前の時代を、俗に神代と呼ぶ。神代のレスニアの大地には、十を超える部族が存在していたが、農耕の発展期ということもあってか、耕作地の権利、飢饉、貧富の差など、様々な理由から諍いが絶えなかったという。

 混乱の大地を平定し、一つの国家として纏め上げたのが初代レスニア王であるが、彼に付き従った十二人の武人の一人が、ミリアルデの祖たるベルイマンなのであった。

 ベルイマンはエリムと呼ばれる部族の出身である。製鉄を司る神秘の一族であり、彼らの在り方は当時から騎士としてのそれに通じていた。類稀なる剣術でレスニア王の危機を救い、建国後も変わらぬ忠誠を尽くしたという。

「それに比べて、我が領地を守る自警団はどうにも情けない。たかが賊一匹に振り回されおって。ここは一つ、古の剣術で活を入れてやってはくれまいか」

「私の拙い技でよければ、ご披露いたします」

「うむ。よく言ってくれた。ベルナをここに!」

 バーウェル卿の言葉に、後ろに控えていた侍女が音もなく動いた。

「失礼いたします」

 暫くして客間に通されたのは、ミリアルデとそう年頃の変わらぬ少女であった。

 上背が高く、女性にしてはかなりの長身だ。腕や太股も逞しく、がっちりしているのが見て取れる。女流の戦士としては恵まれた体躯をしていると言えるだろう。ミリアルデはなかなかの手練だと直感した。

「こやつは自警団の若手の中では、最も優秀な討ち手でな。名をベルナという」

「お初にお目にかかります。私の名はベルナ。貴殿が討った賊が振るっていた大身槍は、私の失態で奪われたものです。取り戻していただいたこと、礼を言わせていただきます。危うく、領民の血税で賜った槍が、守るべき彼らの命を奪うところでありました」

「あなたほどの力量の武芸者が後れを取るなんて、どうやら、あのガラフって奴の口上は的外れではなかったということね。私が勝てたのは、小娘と油断していたからでしょう」

「ご謙遜を。そもそも、詭道は兵法の基本ではありませんか」

「別に好きで騙しているわけじゃないんだけどね」

 ミリアルデは苦笑した。とはいえ、騙されるのも無理はない。彼女は女性の中でも小柄なほうであり、いくら鍛えようが、今以上に腕も足も太くならない。武芸に精通した人間ならば呼吸や足運びから彼女の技量を察するだろうが、さもなくば一瞥して戦士と見抜くのは難しいだろう。女戦士といえば、ベルナのようないでたちを想像するのが一般的だ。

「挨拶は済んだようだな。では、中庭に出るとしよう。今日のために会場の準備をさせているのでな」

 ミリアルデたちは連れだって中庭に出た。青々とした芝生が生えそろい、あちこちに春の花々が咲き乱れ、ちょっとした池まで備わっている。立ち会いの舞台になるであろう、少し開けた場所に自警団の関係者や家中の面々が人垣を作り、彼女の到着を待っていた。

 その中に、ミリアルデを伯爵の言葉を伝えに来た無精髭の男を見つけた。目が合うと、お互いに会釈を交わす。公の席だからだろうか、その腕には先日はなかった隊長を表す腕章が巻かれている。只者ではないと思っていたが、隊長格とは。

 ミリアルデとベルナは五間の距離を取って、座して控えた。

 すかさず、イルザが太刀をミリアルデの左脇へ運ぶ。

 ベルナも両脇に得物を伏して置いていた。小剣と円楯。どうやら、典型的な王国剣術の使い手のようだ。

 ミリアルデは眉をひそめる。

「あの槍じゃなくていいの?」


「はい。確かに、あの槍は私の手元に戻ってきました。ですが、まだ私には、あの槍を手に執る資格はありません。ガラフを倒したあなたを打ち負かさない限り」

 自分の手による奪還が叶わなかったことを気にしているのだろう。ミリアルデの碧眼に楽しげな光が宿る。そういう強気な相手は嫌いではないのだ。

「そう。なら、その資格とやらを奪い返して見せなさい」

「そうさせてもらいましょう」

 側で控えていた検分役が、鐘を片手に腰を上げた。

「それでは、はじめ!」

 鐘が鳴る。

 立ち上がると同時にミリアルデは抜刀、火の構えを取る。

 それに対して、ベルナは右半身を引き、楯を前に突き出す形で構えた。

 上段の構えから繰り出される斬撃は高い威力を備えるが、その分、太刀筋が限定され、防御がおろそかになる。初撃を楯で躱し、その隙を突いて斬り返せばいい。ベルナはそう考え、間合いを詰めるべく、一歩踏み出した。

 その時だ。

 ベルナは目を疑った。上段に構えるミリアルデの姿が、まるで陽炎のように揺らめき、結像しないのだ。姿を捉えようと目を凝らせば凝らすほど、気配が大気に溶け込んでいくかのように希薄になっていく。

 馬鹿な、そんなことがありえるのか。

 ベルナは激しく動揺した。そして、そんな彼の内心を嘲うかのように、ミリアルデは、忽然とその姿を消した。

「なにっ」

 ベルナの驚愕が口に出た。混戦ならいざ知らず、一対一の状況で、目の前にいるはずの相手を見失った。こんなことがありえるのか。ありえるとしたら、どんな仕掛けが――

「そこまで!」

 検分役の声に、はっと息を呑んだベルナ。

 その喉元には、ミリアルデの太刀の切っ先が突きつけられていた。
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