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日記、ところにより妄想。
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とりあえず2Pほど公開。
さっそく矛盾点があるけど、あくまで試し読み。最終的に加筆修正するのでご容赦を。

もうちょっと書いているんだけど、更新はまた後日。

ここだけの話、今回はすっごく書いてて楽しかった。
そのせいか、文体がいつもの調子に戻っている感じ。いかんいかん。もうちょっとコントロールしないと。

今月はあと一回載せられれば上出来かなぁ……。



3/4

 そして、三日が過ぎた。

 穏やかな眠りから覚めたミリアルデは、いつもと変わらぬ朝稽古の後、離れの井戸端で冷水を浴び、念入りに身を清めた。身体が曇れば剣も曇るというのがベルイマンの信条である。御前試合の前ともなれば、禊に力が入ってしまうのも無理からぬことであった。

「お嬢様。本日は、こちらをお召しください」

 水垢離を終えたミリアルデにイルザが差し出したのは、先日、湯屋に預けていたものではなく、美しい薔薇の刺繍が施された、真新しい衣装の一式であった。

 武器を執って戦場に立つ以上、常に落命の可能性を孕むのが兵法者というものだ。彼らは見苦しい死に様を晒すことをこの上ない恥としており、己が死に際を飾る武具や装束の意匠に並々ならぬこだわりを持っている。騎士が鎧や楯に紋様を彫ったり、傭兵が派手な色彩の衣を纏ったりするのが、その良い例であった。

 武人の端くれであるミリアルデにも、その風習は理解できる。これは、他流試合に臨む彼女のためにイルザが用意した晴着なのだ。

 されど。

「……イルザ、これはいささか派手じゃない?」

 ミリアルデは何か苦いものを噛み潰したような顔つきで、丁寧に折り畳まれている下着を広げた。上着と同様、鮮やかな薔薇の刺繍が施された、真っ白な透かし編みの下穿き。材質も綿ではなく高価な絹を用いているようだ。職人の技と情熱を感じさせる、ちょっとした芸術品である。

「そんなことはございません。武人にとって戦装束とは死装束。戦ではないにしろ、真剣を用いるからには万全を期さねばなりません」

「どんな万全よ……」

「目に見えないところにまで気を配るのが、真のお洒落というものです」

「……やっぱり、いつものやつでいいよ」

「いけません! 前々から申し上げたかったのですが、あの下着はお嬢様の魅力を非常に減じさせてしまいます!」

「なんでよ。可愛いじゃない、しましま」

 ミリアルデは唇を尖らせて反論する。

「あれは邪なのです! お嬢様があれをお召しになると、その、とてもあざといと申しますか、狙っていると申しましょうか……」

「は?」

「とにかく駄目です! 人生の晴れ舞台くらい、歳相応のものをお召しください!」

「……はい」

 イルザは断固として譲らず、ミリアルデは渡された衣装をしぶしぶ身につける。

(イルザって時々、訳の分からないことを言うのよね。透けてるほうが歳相応とでも?)

 両者の服飾に対する感性の食い違いはさておき、清潔な生地に素肌が包まれると、胸のうちが冴え渡り、気持ちが引き締まるようであった。

 ミリアルデは篭手と脛当てのみを装備し、防御の要たる胸甲鎧は纏わなかった。ベルイマンの家の剣術は、遡れば、防具を身に着けるという発想が生まれる以前から存在した流派だ。何が起こるか予測できない旅の道中は、万が一に備えて鎧を着込んでいたが、ここは危険が少ない人里、まして、これから行うのは第三者の邪魔の入らない決闘じみたものである。彼女本来の戦い方を行うには、鎧は文字通り重石でしかないのだ。

 着替えを終えると、塩で薄く味付けした粥で腹ごしらえをする。朝を抜いたほうが軽快に動けるという者もいるが、ミリアルデはきちんと食事を摂らないと力が出ない体質だ。もちろん、食べ過ぎれば動きも鈍るし、判断力も低下する。その上、満腹時に腹部に傷を負えば死亡率が格段に跳ね上がる。故に、彼女は日頃より腹六分を心がけていた。

 迎えの時刻になると、調整を終えたばかりの大小の太刀を革帯に挿して、イルザと供に旅籠を出た。

 軒先には、自警団の馬車が停まっている。

「お勤めご苦労」

 御者に挨拶して、二人は馬車に乗り込んだ。

 鞭の音が響き、ゆっくりと馬車が進み始める。馬の嘶きに驚いた鳥たちが朝焼けの空に飛び立っていった。

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