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日記、ところにより妄想。
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きゅるる……。

なんとも間の抜けた音が夕暮れの森に響く。

真っ赤に染まった樹海の中を、二人の少女が陰鬱な空気を漂わせながら歩いていた。

一人は、絹のような金髪をポニーテールに纏め、鎧を纏った少女騎士。
もう一人は、艶やかな黒髪が特徴的な侍女である。

「うぅ……お腹空いたよぅ……」

少女騎士は覇気のない声で呟いた。

というのも、この三日。水と食べられそうな野草しか口にしていないからだ。

女の身空とはいえ、いまだ育ち盛りの食べ盛り。
武芸に生きる者として、三日の絶食は耐えがたかった。

「お嬢様」

先頭を歩く侍女が窘めるように口を開く。

「貴族の息女たるもの、無闇にそのようなことを口に出してはなりません。品格が疑われます。アーベルクライン家の後継者として、何時如何なる時も優雅にお振る舞いください」

「騎士は食わねど高楊枝って言いたいの?」

「左様でございます。まして、お嬢様は武者修行中の身とはいえ、元服された暁には、国王陛下より叙勲賜り、誉れ高き王国騎士団に任官なさいます。騎士は民草の剣であり盾。いずれ戦場に立つお嬢様には、相応の風格が求められるのです」

「言っていることはわかるけど、やせ我慢は身体に毒だよ。それにね、あんたが荷物を捨てなきゃ、我慢することもなかったんだけどね」

恨みがましく、少女。

「何を仰るやら。熊に出会ったら荷物を捨て、気を引き、その間にゆっくり後退するのが最善。死んだふりなど迷信です」

少女騎士が飢えている原因である。

「だからってさ、全部捨てることないじゃないのよ。あの中にはお金や地図だって入ってたんだよ?」

「あの状況で取捨選択できたとでも?」

侍女が言っていることは正しい。行動を誤れば、最悪、熊の胃袋を満たす羽目になっていた。それは少女騎士にもわかっている。だからと言って、こちらの胃袋の虚しさは収まるわけではないが。

「それはそうなんだけどさあ……」

なおも愚痴を零そうとした時、少女の視界にあるものが映った。

煙だ。

朱色に染まった空に、一筋の白い煙が立ち昇っている。

「近くに集落があるのかな?」

「地図がないので確認はできませんが……山火事という落ちではないでしょうね?」

「飢え死よりはマシだよ」

「焼死もどうかと思いますが、ただ座すよりはよほど建設的ですね」

きゅるる……。

希望が見えて緊張が緩んだのか、今度は侍女の腹の虫が鳴いた。

「なんだ、やっぱりあんたもお腹空いてたんじゃない。高楊枝じゃないの?」

メイドの頬が、夕焼けよりも赤く染まる。

「わ、私は騎士ではありませんのでっ」

「はいはい。なら、日が暮れる前に辿り着けるよう、頑張りますか!」

そう言うと、少女騎士は走り出した。

行き着く先が、絶望の始まりだとは知らず。



……続かない!
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1985/12/07
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F県に棲息するナマモノ。
創作家になれるよう、亀の歩みで成長中。
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